とまとの推しが尊い

ジャンルごった煮、推しにまつわることを書き連ねるブログ

イナダ組舞台「アイドルを探せ!」の感想と考察

 

「アイドルを探せ!」とは

 

「アイドルを探せ!」とは、イナダ組が1998年に打った17回目の公演。TEAM NACSの佐藤重幸(現在の芸名は戸次重幸)さんが主演され、森崎博之さん、大泉洋さんが出演されている舞台です。
DVD化されておらず、感想ブログなどもほぼ見つからない、砂漠のような舞台なのですが……縁あって、鑑賞することができたので、私の備忘録も兼ねて感想ブログを書くことにしました。

 舞台は伝説のトップアイドルだった妻を再び返り咲かせる為、奔走する主人公が妻殺害の容疑で取り調べを受けるところから始まります。本当に彼が殺したのか、なぜ彼女は死んだのか。主人公の回想をたどるうち、観客はひとつの真実にたどり着く。その過程で、芸能界の光と陰、舞台に立つ者の性、嫉妬や絶望、様々な人間の感情を突きつけられ、考えさせてくれる。当時のアイドルの名前やヒット曲の名前が記号として多々登場し、時々コミカルな場面も入る、それでいて重厚な作品です。



ネタバレ無し感想

 

 恋愛と芸能の仕事は、どちらも「終わりがやってくる」という恐怖がつきまとう。それにきちんと向き合うことができれば、もし上手くいかないことがあっても、自分を傷つけたりしないでも大丈夫。
 そのことを真摯に、しかし痛みをもって教えてくれる舞台でした。切なくて苦しくて、笑えるけどほろ苦い。緩急がすごくて、ずっと舞台に惹きつけられました。

 

 まず、とにかくシゲさんの絶望演技が良すぎる。心がぐっと掴まれました。妻に縋り付く演技、おそろしく絶望的で最高でしたね……。一瞬、何が起きているかわからない、と固まる顔。受け入れがたい言葉を聞いて、絶望のあまり目は見開かれて、眉根が寄って、畳み掛けるような叫び声は切ないほどに情けなくて。森崎さんが以前キューダイで書かれていた気がするけど、本当にシゲさんほど絶望の演技がハマる役者さんはいないなぁ……と改めて痛感しました。
 あと森崎さんがスーツで決めて、冷静に振る舞うお芝居も素敵だった。森崎さんは現実とオサムの回想とを行き来する転換の表現が自然で、とても良かったです。いやスーツ似合い過ぎでは……黒ベストが格好良すぎた……ラスト、調書片手に煙草吸うシーンがね……はぁ……色っぽすぎてね……
 そしてなんといっても、大泉さん演じる小御堂が感情を爆発させるシーンはもう、呼吸をするのを忘れてしまって……ものすごく心拍数が上がって……すごいお芝居でした。

小島さんの歌唱力、Jさんの笑いのとり方、山村さんの迫真の演技……2021年現在でも新鮮に楽しめました。

 

プロット(がっつりネタバレ)
 

がっつりネタバレしております。
本編をご覧になれない方にも考察楽しんでいただきたくて……。

 

大丈夫ですか?

恐ろしいほどのネタバレしてますよ?


本当に本当にストーリー展開や台詞のネタバレの宝庫になっています。

ので、十分な覚悟のほどをお願いいたします。

 


それでは↓

 


↓↓↓


神垣(刑事)がオサム(32歳)(元ダンサー、亡くなったナミエの夫兼マネージャ兼付き人(ほぼヒモ))を刑務所で取り調べるシーンから始まる
オサムはナミエを殺したと自白。「俺はナミエを殺した。それでいいじゃないか!動機は愛!」

回想①
ナミエは元トップアイドルだったが一旦引退、そこから演歌歌手として再び芸能の道へ復帰。
オサムはナミエの世話以外にすることがない、ダンサーとしての才能を活かさないのかとナミエに聞かれてもダンスの道は一切諦めており「お前のヒモでもいいや!」

ナミエとオサムは結婚しており、娘のハルコがいる。しかし、彼女が二人の子供かは不明。それに、オサムはハルコが学校に行っているかどうかも把握していない。
ハルコ→オサム「一度もパパだと思ったことない/ママはいけない恋をして私をつくって、それを隠すために好きでもないあんたなんかと一緒になったの」

刑務所
神垣「ハルコは二人の子供ではない…それが真実?」
オサム「さぁ。どっちだっていい。父親らしいことなんてなにひとつしてやらなかった」
ナミエに仕事が来なくなって、仕事を待つことが仕事になっていたと打ち明けるオサム。

回想②
神垣(プロデューサの付き人)が出てくるシーン
ハルコを神垣がプロデューサ(キャンディ氏)の元へ連れてくる
キャンディの事務所は、もともとナミエが所属していたところだった。ナミエはそこを辞め、個人事務所として独立(社長がオサム)

小御堂は敏腕プロデューサだが、タレント志望の女の子をディレクターに売って枕で金稼いだりもしている男。
小御堂にハルコやナミエの仕事を回してくれるように頼み込むオサム(ふたりは小御堂がADだった頃からの付き合い)。「またお前のケツ貸してよ、ナミエのレギュラー取ってきてよぉ、小御堂ちゃんよぉ」
仕事を取るために、男相手に身体を売っている小御堂「お前も少しは身体張ったらどうだ?」
小御堂には「ゴリラ芋」な嫁がいる、そのことをオサムに散々弄られた小御堂は「オサムよぉ!お前死ね……自殺しろ!そしたらナミエ使ってやるよ/ナミエもビッグになるには旦那ひとりくらい自殺に追い込まねぇとよ」とオサムを脅し、「あいつのために死んでやれ!」と叫ぶ。
妖艶な色気をもつ女性芸能人は周りの男の生気を吸ってる、だからオサムもナミエに自分の命を差し出せと命じる小御堂。

ナミエ、年齢をごまかしてまで演技の仕事もらう。
小御堂、ナミエに脱ぎ仕事をもちかける「ハードにレイプされる役、体当たりでやってよ/いつまでも清純気取ってないで、生身の女演じたらどうだ?年が年なんだからよ」
そんな役はやりたくないと言うナミエ、他の女優にも「あんたさぁ、このドラマに出るためにも何人かと寝てるんでしょ?テレビに顔映るだけでもいいと思わないと」と言われる
小御堂→ナミエ「お前は役ほしさに服脱いですぐ寝ちゃう、その程度の女なんだよ?誰もおめぇのことなんて女優なんて思ってねぇんだよ!」

ナミエ・オサムの知らないところで華麗なアイドルデビューをするハルコ。

オサムの独白「ハルコはトップアイドルへの道を駆け上り、ナミエはそれを喜びながらも、ふたりの溝が深まる。愛する者だからこそ憎む。許せない」
※この「愛する者だからこそ…」という台詞が「オサムはナミエを殺した。動機は、愛」という筋へのミスリードか。


ナミエに2時間ドラマの冒頭5分で殺される役が来る。ナミエはそんな役はやりたくない。
キャンディ→オサム「あの子の旬が終わったと一番感じてるのはオサム、あなたじゃないの?/あんたまだダンサー諦めてないんでしょ。陰で毎日練習してるんでしょ?/華やかなライトスポット浴びたんだからあの感覚忘れるわけないもんねぇ?ナミエはもうだめ。あなたにチャンスよ。自分を偽るのはやめなさい」

この引き抜きの話はハルコが手を回していた
オサムとハルコ、口論。「ナミエを傷つけることはすんな!」「あたしと寝てみない?ママとどのくらい寝た?」
ハルコ「恋愛のいちばん悲しいところは、いつか終わりがやってくると思う恐怖/この不安や恐怖をきちっと見つめる自信があれば、もし上手く行かなくなってもナイフを振り回したり自分を傷つけなくっても済むのよ
※ライティングが青に変化。
幻想から覚めるにはね、深く悲しみに落ちるしかないの。オサムちゃんがナミエちゃんとのこときちんとしたいんだったら、私と寝ること。これ以上二人が傷つくものないでしょ」
※この台詞がこの舞台を貫く軸になっている。
「お前何言ってんだよ、さっぱりわからんよ。キャンディのとこで洗脳されてんのか?」
「愛なんて所詮幻想なんだから」
ハルコとオサムが交わる雰囲気になる

刑務所に切り替わる
「大丈夫ですか」「神垣さん!……いえ、悪い夢を」

回想③
ナミエ、神埼(キャンディの付き人)とオサムが契約していたらしい現場を目撃。
ナミエ、嫌がっていた2時間ドラマの汚れ役を受けることにする。その5分のシーン(オサム役の男がナミエの役を殺すシーン)をオサムとふたりで練習。
「全部嫌いになったのよ、あなたのこと全部!」ナミエは台詞を言っていたはずが、次第にオサムへの本音が出てくる「一緒にいたら、ふたりともダメになっちゃうのよ/はじめっから無理だったのよ、私には私の夢があり、あなたにはあなたの夢があった/なのにあなたは私の夢にすがり、自分の夢があたしなのかのように偽り続けた。本当はちゃんとあるんでしょ」
オサムがダンスの練習してること、キャンディのとこの契約の話がきていることを問い詰めるナミエ。
「もういいから!私ひとりでもやっていけるから、あなたはあなたの好きなようにして/全部嫌いになったのよ!しつこい男嫌いなの!早く帰ってよ!」
オサムは「今は少し、調子が悪いだけだよ、ちょっと我慢すれば、また仕事が回りだす!あんな仕事しなくていいから、俺いい仕事いっぱい取ってくっから!/ふたりで頑張ろう?」とナミエをなだめようとする。

ナミエ、オサムにナイフを突きつけて「もうダメなの!近寄らないで!私には私の夢があって、あなたにはあなたの夢があるの!」
※ライティングが青に変化。
オサム、慌ててナイフを奪う
あなたの夢は私じゃないの、幻想よ、あなたそう思い込んでるだけなのよ!
「ナミエもさ、ビッグになりたいんだったら、男ひとりくらい自殺に追い込まないとさ!」
オサム、自殺を図る「俺の夢は、お前自身なんだ。お前が大歓声のなか、華やかなスポットライトを浴びてる、それを袖から見てるだけで、俺は!俺は、俺は幸せなんだ!」

小御堂「カット!」
ナミエ、ドラマの現場へ。

小御堂→オサム「俺の言うこと真に受けるとは、おめぇら見てるとヘドが出るぜ/お前そんなにあの女に入れ込んでんのか?健気だねぇ」
小御堂がオサム抱こうとする(ナミエの仕事を取るかわり、オサムの身体を差し出すよう強要)が、オサムはめちゃくちゃ嫌がる。小御堂、オサムのこと蹴り飛ばす。
「甘ったれたプライドとか捨てろよ/ナミエの仕事が欲しいんだろ、そのためだったらなんでもすんだろ、お前そう言ってたじゃねえかよ。好きなんだろ?惚れてんだろ!」
小御堂、嫁とどうして別れないのかを突然告げる。「愛情のうち、愛の部分なんてもうない、情の部分だけで別れずにいる。だから好きとかなんとか言ってるうちは大成しない、思い上がるな!」とオサムに怒鳴りつける。
そして小御堂がオサムに告白
好きなんだよ!ギリギリのところで頑張ってた!お前の従順さが好きだったんだよ、男でも女でもヤギでも、何でも救いを求めてたから、お前の従順さが羨ましかったんだよ。お前は知らないうちに人を好きにさせる。でも、それを受け止めるだけの器がないから、だから人を不幸にすんだよ!」


ナミエ、小御堂とオサムが絡んでいるとこに戻ってくる。
オサムは小御堂が無理やり迫ったと言うが、小御堂は「オサムがキャンディと契約することになって、小御堂とはプロダクション契約切りたいからケツ出してきたんだよ。こいつはテメェのことしか考えてねぇのよ」と説明。
オサム→小御堂にナイフ突きつけ「今言ったこと全部、嘘だって言えよ!」と脅すも、手は震えている。
小御堂、オサムを投げ飛ばし蹴り飛ばす。
「ナミエよ。俺の話とこいつの話、どっち信じる?どっちにしても結果は同じか」「オサム。さっきお前に言ったことは真実だ」

ナミエはオサムに、「わたしオサム信じようと努力してる。でも最近思うの、私オサムに甘え過ぎだって。自分のことは自分でしないと」と言う。
※ライティングが青に変化。
オサムは「俺は、お前だけなんだよ信じてくれ」とすがりつく。
「信じてるわよ」「嘘だー!お前は俺を疑ってる。俺は何もしていない。俺はお前だけなんだよ、信じてくれよ!どーすればいい?どーすれば分かってくれる?」
自殺を図るオサム。
神垣(キャンディの付き人)「カット!」 神埼とキャンディ登場。
神垣→オサム「死んで侘びたって何の得にもならないんだよ!あんた一回契約書にサインしたんだよ、それをできませんって」
キャンディ→オサム「(a)芸能界で一生干されながら二人でやっていくか、(b)ナミエはアジアで売り出し、オサムはダンサーとしてハルコのグループのメンバーになるか」の二択を迫る

刑務所
神垣「それからどうしたんです?」
オサム「え」
神垣「あなたは妄想の中、自分を消し去ることで事実から逃げている。自殺なんて一度もしていない。あなたがナミエさんを殺した」
オサム「僕がナミエを?」
神垣「あなたはナミエ一人をアジアに行かせることを望まかなった。あなたは芸能界から見放されようとも一緒に再起をかけたい、そう願っていた。そう決め、二人でやり直そうと言うために、彼女のマンションへ行った」

回想④ 事件当日のマンション
ナミエにつらくあたるオサム。部屋の汚さをバカにし、どうせ向こうでも喋れることなんて期待されてないと言い放つ。ナミエは海外で新しい彼氏を探すことを示唆。
「プロデューサーのおやじに変な病気移されんなよ」「なんでそういう嫌なことばっかり言うかな」「馬鹿野郎。心配してるからだろ。お前一人で行くんだぞ。掃除洗濯も全部自分でやらないといけないんだぞ!」
オサム、ナミエがオサムなしでは普通の生活すら送れないことを一つ一つ指摘していく。
※オサムのナミエへの話し方が、今までの回想シーンと全く違う。ナミエに向かって、中卒だ、汚い、ズボラだ、と散々な口をきく。回想③までは、オサムはかなりナミエに媚びへつらっていたが、そうした回想がかなりオサムによって捻じ曲げられたもので、このやりとりが二人の本来の距離感だということか。
俺がいないと私はダメだって言いたいの?
オサムをビンタするナミエ。
「向こうで、ちゃあんとオサムの替わり見つけるから。ぜーんぶ自分でするから。」「そうだな、俺はお役ごめんだよな」「オサムちゃん。大丈夫?」「は、なにが?俺が?」「うん」「俺は大丈夫に決まってんだろ、えぇ?
ここで「俺には、お前しかいないんだ」という素振りは一切見せないオサム。ここまでのナミエに縋り付くシーンはオサムの幻想だった、ということを示すシーンだろう。
ダンスレッスンが始まっているから大丈夫だと張り切ってみせるオサム。「見ろよこの身体のキレ!昔通りだろ!」とステップを踏むが、毎回同じところでうまくいかない。「よし、今ちょっと酔っ払ってるから!もっかい!もう一回だけやらして!」と、何度もやり直す。何度も。ぜえぜえと息切れしながら、何度も。ナミエは涙ぐみながら、オサムが頑張る姿をじっと見つめる。
「この足がさぁ!この足がさ、昔みたいに、うまく行かねぇんだよ!どうしてだ、どうしてだ、ナミエ。俺がいないとだめなのはお前じゃなくて、ナミエがいないとダメなのが!
※ここもシゲさんの絶望演技が光り輝いていましたね……現実の世界では、オサムはここまで事態が行き詰まってはじめて、ナミエに依存していた自分に気付いたということでしょう……
「大歓声とスポットライトの中。華やかな歓声と拍手浴びてる私見るだけで、オサム幸せだって、そう言ってくれたよね。私もね、はじめてあなた見た時そう思ったの。あなたが息切れひとつせず軽やかにステップ踏んでるその姿見た時に、あたしも、私も幸せって、そう思ったの。大歓声のなか、もう一度華やかなスポットライトを浴びるのは、私じゃなくて、あなたよ。さあ!立って!もう一度私に、息切れひとつせず、華やかなステップ踏んで見せて!」

ナミエ「あなたの夢が、私の夢なの」とナイフを握る。オサムは止めようとするが、「はじめて貴方を見た時から、大好きだった!」とナミエは叫び、自殺。
オサム「カットだカット!小御堂さん、カットでしょカット!」と叫ぶ。「ダメだよナミエ、俺の夢は、お前なんだよ。俺の夢は、お前なのにナミエ!カット!カットでしょ!……カット!」

ナミエは死亡。
ハルコはグループ活動をやめ、ソロ活動へ転向。オサムはハルコのマネージャ兼付き人のようになっている。
※これ、明示はされてないけど、結局オサムはダンサーとして舞台に復帰できたのは一瞬だったってことなんだろうな……。
ハルコ、ナミエへの手紙読む
「そちら(=天国)の生活はどうですか。……私はママに対して正直ではなかったと思います。随分ママを引きずり回したり傷つけたりしたんだろうと思います。でもそうすることで、私だって自分自身を引きずり回し、自分自身を傷つけてきたんです。もし私がママの中になにか傷を残したんだとしたら、それはママだけの傷ではなく、私の傷でもあったのです。だから、そのことで私を責めたりはしないでください。私は本当にママが大好きだったし、憧れの存在だったのだから。
※「引きずり回して傷つけて…」が冒頭のハルコの台詞「ナイフを振り回して自分を傷つけたりしなくても…」と対になっている
「寂しくなったら、眩しく光り輝いていたときのあの頃のママの曲を聴きます。大歓声と拍手のなか、華やかなスポットライトを浴びているママの姿を思い出します。追伸:ナミエちゃんの新たな再起を楽しみにしています。遠い空の下、いつかあなたの歌声を聴けることを本当に楽しみにしています。いつかそちらに行った時、アイドルを探してみようと思います。そしてそのアイドルが、ナミエちゃん。あなたであることを、楽しみにしています。ハルコ」
※すぐに消費され忘れられるアイドルという仕事と、「ママを思い出します」という娘の台詞の対比。

オサム「神垣さん」※ライティングが青に変化。「動機は、愛」「動機は、愛。これで、いいですよね(少し切なそうな、それでいてほっとしたような言い方で)」「動機は愛、ね」

神垣によるエピローグ
オサムはナミエを殺した疑いで逮捕されたが、取り調べの結果、ナミエは自殺と判明。オサムは死体遺棄と虚偽証言罪で立件、書類送検となった
※青のライティングのまま

 


ネタバレあり感想と考察

 
 かなりとりとめのない感想・考察になりますが、ご容赦ください。
 まずは全体的なふわっとした感想を。
 舞台に立った者は、スポットライトを浴びた者は、熱に浮かされたようになる。いつまでも舞台に立ち続けることを望んでしまう。
 その煌めきと虚しさを、役者が舞台の上で表現するという二重構造にぐっと来ました。
 いや、それにしても、兎にも角にも、暗転する舞台にオサムの「カットぉ……!」という絶望的な叫び声が響くシーン、本当に胸がぎゅっとなりました。シゲさんの絶望演技、すごすぎる……ノーベル絶望演技賞受賞おめでとうございます……

 以下、この作品の考察をしたいと思います。あくまでも素人の考察ですので、ご容赦ください。
 
 この舞台のキーワードは「真実/幻想」、「愛/情」。
 そして、これらを読み解く鍵として重要になるのがハルコの
A「幻想から現実に帰ってくるためには深く悲しみに落ちるしかない」
B「恋愛のいちばん悲しいところは、いつか終わりがやってくると思う恐怖/この不安や恐怖をきちっと見つめる自信があれば、もし上手く行かなくなってもナイフを振り回したり自分を傷つけなくっても済む」
C「愛なんて幻想なんだから」
というみっつの台詞だと思いました。

 ACは、オサムが真実と向き合うためのキーワードとしての役割を果たしています。冒頭、オサムは「俺がナミエを殺した。動機は、愛。それでいいじゃないですか」と言っているが、これは「幻想」。
 オサムは供述をするうちに、だんだん幻想に逃げるのをやめ、最後には真実と向き合う。
 ナミエはオサムに殺されたのではなく、自ら死を選んでいた。
 そして、オサムはナミエとの間に最後まで愛があったと思っていたけれど(「動機は愛」)、実際にはもう、情でしか繋がっていなかった。
 回想④で浮き彫りになったのは、オサムがナミエに対して「ゴミ箱みてぇな部屋に住んで/お前人として女として、もうちょっとちゃんとしないと。もうお前は俺がいないとさ……」とグチグチ言い立てる日常生活。これは回想①〜③では見えることのなかった姿なんですよね。オサムはナミエに媚びへつらわず、蔑みの視線を隠しもしない。そこに、愛はない。

 でも、ナミエは最後、自らに刃を突き立てる時、オサムへの最大級の愛情表現をします。これは回想③のオサム自殺未遂シーンと真反対の構図になっている。
 神垣刑事がオサムに対して「あなたは自殺をしていない。それは妄想だ」という類のことを言いますが、「相手のためを思って自殺する」=「愛」=「幻想」という方程式がこの作品を貫いているように思えて。
 これが分かった瞬間、どうしようもなく苦しくて、冒頭と終盤で「動機は、愛」と悲しい目付きで言うオサムが見ていられなくて、感情がぐちゃぐちゃになりましたね……。これは、オサムがナミエとの間には愛があったのだ、と、そう思いたいという願望の現れでもあり、彼女はオサムへの愛を感じながら自らを殺したのだ、という叫びでもあり……。じわじわと胸にくるものがある台詞です。


 回想①〜③のどこまでが現実で、どこからが幻想なのか、私もまだはっきりとは分かっていないです。

ただ、現実に最も近いであろう回想④において、オサムはそれまで「お前は俺がいないとダメだな」と思っていたのに、自分こそ彼女に依存していたのだと初めて気付いた……というシーンがありました。だからこそ、回想①〜③のライトが青のシーンで「俺にはお前しかいない」と叫んでいたのは、「

現実世界ではそんな風には伝えられていなかった」ということかなぁ、などと考えています。
 

 この舞台、a「オサムにとってナミエが全てで、ナミエを売れさせるために奔走し、自殺まで図ろうとした。しかし、娘に迫られてダンサーとしての契約を持ちかけられ、小御堂にも迫られ、いちどはダンサーとしてやっていこうかとも思ったが、最終的にはやっぱり芸能界から干されてもいいから二人で再起しようと訴えて(ふたりの間には愛があって)、口論の末ナミエを殺した」というストーリーと、b「オサムにはダンサーとして舞台に戻りたいという自分の夢があって、ナミエの夢を最初は応援していたが限界を感じ、娘を抱き込んで自分のダンサー契約を勝ち取り、小御堂には自分から身体を差し出し、ナミエの間には情しか残っておらず、ナミエはオサムの行く末と自分の置かれた状況を憂いて自ら命を絶った」というストーリーが混在していて、その境目が分からなくなっているんですよね。時が経つごとにabへとじわじわ変化したのか、それともaは完全なオサムの妄想で、bが現実なのか。その分からなさ込みで楽しめる、演劇ってほんと、楽しみ方が無限大で大好きです。

 そして何より面白かったのは、小御堂とオサムの関係性です。


 ナミエと小御堂は、どちらも「仕事のためなら枕営業できてしまう」人間。これに対してオサムは、地道にこっそり深夜の個人練をし、身体を差し出すことに拒否感を示し、加齢と共に衰えていく身体を恨みながらも、それでも必死にステップを踏む男。彼らは同じ芸能界で物凄く近くにいながら、どこまでも交わらないところにいた。
 小御堂はオサムに「お前の従順さが羨ましかったんだよ。お前は知らないうちに人を好きにさせる。でも、それを受け止めるだけの器がないから、だから人を不幸にすんだよ!」と告白しますが、これはナミエがオサムに対して抱いていた気持ちにも近かったのかもしれません。彼らは、オサムの放つ光にあてられて、翼を灼かれたイカロスのような存在なのかもしれないな……などと考えながら観ていました。
 ただ、もし小御堂の言うことが「真実」で、オサムはナミエの芸能活動に限界を感じ、娘を抱き込んで自分をダンサーとしてキャンディと契約を交わし、プロデューサー契約を切るよう頼むために小御堂に身体を差し出していたとしたら……。
 現時点での私の解釈はこうです。オサムは自分の保身のため、小御堂に身体を差し出してしまったのではないでしょうか。小御堂は失望したでしょう。今まで枕とは縁遠いところにいたオサムが、「ぎりぎりのところで頑張っていた」オサムが、枕営業する小御堂を蔑んでいたオサムが、ついに彼らの側に堕ちてしまうところを、小御堂は目の当たりにしてしまったことになる。だからこそ、小御堂は感情が爆発して気持ちを吐露してしまったのではないか。
 現実と妄想の境目が曖昧な作品ですが、こう解釈すると切なくて苦しくてたまりません。

 


 また、避けては通れないのがナミエの内面。彼女は最期、何を思って自殺したのか。
ここで効いてくるのが、ハルコの台詞B「恋愛のいちばん悲しいところは、いつか終わりがやってくると思う恐怖/この不安や恐怖をきちっと見つめる自信があれば、もし上手く行かなくなってもナイフを振り回したり自分を傷つけなくっても済む」です。


 ナミエは、息切れしながらステップを踏み、絶望するオサムを見つめながら、自らの芸能の仕事・オサムの芸能の仕事・オサムとの恋愛、すべてに「終わり」を感じ取ってしまったのではないでしょうか。
 これから一人で向かう外国では、言葉を話す能力など期待してももらえず、ただ枕しに行くだけ。自分にはこの先、きっと大きな仕事はこない。もう自分が舞台で輝けることは、きっと、絶対に、ない。オサムは、必死にステップを踏んでいるけれど、もう年齢には抗えない。彼が本当にダンサーとしてやっていけるのか、分からない。そして、彼をダンスから引きずり下ろしたのは、他でもない、自分で。オサムに「ナミエの夢が俺の夢だ」と言わせたのは、紛れもなく、自分で。その自分は今、誰にも知られない国で誰にも知られずに終わっていく。一度は、トップアイドルとして名を馳せた自分が。十年も離れ離れになったら、もう彼とヨリを戻すこともないだろう。自分はきっと、向こうで適当な男を捕まえなければならない。オサムとはもう、終わりだ。
 ナミエは様々な終焉を目の当たりにして、全てを投げ出したくなったのかな。それらを受け入れることはおそろしく難しかったことでしょう。彼女がトップアイドルを経験してしまったばかりに、汚れ役を演じなければならないことも、娘が”波に乗って”チャートを上り詰めていくことも、娘と夫が自分がかつて所属していた事務所で働くようになり、自分が除け者のようになることも……。彼女が絶望する理由は十分すぎるほどありました。

 ラストでオサムのダンスを見つめるナミエの内心については沢山解釈のしようがあるので、他の方の解釈も聞いてみたいな〜って感じです。私もまだ解釈が定まったわけではないですし……笑
 この作品自体、解釈が物凄く別れうると思っています。実際、他にブログ書かれていた方は随分と違う捉え方をされていたようでした。


 現実と妄想が入れ交じる舞台のため、どこまでが現実かは最後まで完全にはハッキリとしないのですが、「現実の現在のオサムの主観が混じって捻じ曲げられている」回想シーンはライティングが青く変化するという法則がありそうだったので、それを頼りに解釈してみました。
 もっとも、ナミエの自殺だとすると、刑事が冒頭で言っていた「ナミエは後頭部を刺され、腹部を刺され…」というのとオサムの回想(ナミエが腹を一突きして死んでいる)とが整合しないんですよね……。私は冒頭の説明もオサムの妄想だったのかな?と思うことにしましたが、ちょっと謎が残るあたりも面白いですね。

 

 

さいごに

大学の課題のレポート(3000字)にはひいひい言っているのに、好きな舞台について語るとあっという間に1万字を超えてしまう現象に名前をつけたい。長々と失礼しました。本当に素敵な舞台なので、なんらかの手段で観ていただきたいな〜と思います!!

 

※あと、この舞台を観て(およびブログを読んで)結構好きなタイプだな〜と思われた方、今敏監督の映画「パーフェクトブルー」がかなりお薦めです!アイドルという仕事、苦悩、芸能界の光と陰……たっぷり楽しんでいただけること間違いなしです。