とまとの推しが尊い

ジャンルごった煮、推しにまつわることを書き連ねるブログ

イナダ組舞台「ライナス」の感想と考察

 

ずっとずっと観たかったライナスを!ようやく!!!観ました!!!!!!!!!
いやぁ……………ボディブロー喰らいました…………
頼む、観てくれ……この大泉さんが世間に見つかってくれ…………凄い役者さんなんです……本当に…………もの凄い才能の塊なんです……………………

ライナスとは、2003年に上演された、劇団イナダ組による公演です。
舞台は、ある男が中学生の夏休みの出来事を思い出すところから始まる。両親が離婚し、母親が他界してしまった主人公は叔母のもとで暮らしていた。とある夏、彼と姉は、長いこと会っていなかった父親に突然「一緒に暮らそう」と言われ、上京する。そこで彼らを待ち受けていたのは、女性の格好をした父親だった―。

ネタバレなし感想 

苦しかった。登場人物たちの苦悩がリアルで、心がひりひりした。
現実はドラマみたいに上手くいく訳じゃない。
それでも、救いはある。
自分と、周囲と、ちゃんと向き合った先には、一縷の望みはある。親との向き合い方、子との向き合い方。自分の周りで生きているひとたちとの向き合い方。そして何よりも、孤独との向き合い方。これはきっと、一生考え続けなければならない話だと思う。

たっぷり笑って、胸が詰まって、彼らの人生をぎゅっと投げつけられた感じで、ずっしりと胸に残りました。
※子どもへの折檻の描写はありますが、そこまで直接的なシーンはありません。ただ、経験がある方にはフラッシュバックのきっかけとなりそうな台詞がありますので、そこは少し注意かも。


なによりもまず、大泉洋さんの演技。

春夫が、そこに居るんです。
どうか、どうか……観てほしい。
圧倒されてほしい。

主人公の父である春夫は、「女」として生きることを決意して離婚し、主人公の元を去った。そして、10年ぶりに再会した時、春夫は”春ちゃん”になり、完全に女性としての装いをしていた。

春ちゃんの表情。春ちゃんの声。
笑うところはちゃんと面白くて、
スナックのママのファンになって、

そして、

胸を抉られる。

今や国民的俳優である大泉洋さんは当時30歳。あの時から既に圧倒的な才能を放っていたのだな……と知り、札幌に住んでいなかった自分を悔やんだ。悔しい。劇場で観たかった。

とにかく、大泉さんが演じる春夫が、美しいんです。

いや、何を言っているんだと思われるかもしれない。
サテンの寝間着を着た大泉洋、女性もののジャケットを羽織って白い膝丈スカートを履く大泉洋、それは"面白い"のではないかと。

確かに、客席からは笑いも起きていた(2003年当時、「オカマ」が笑いのアイコンとして認識されていたという背景もあるように思う)

しかし、私は全身に稲妻が走ったような衝撃を受けた。ひたすらに美しいのだ。

そこに居たのは、女性だった。

すらりと長い手足のおかげなのか、少し陰のある化粧のおかげか。勿論それもあるが、それだけではない。
細やかな所作。目線のやり方。そのどれもが、しなやかなのである。そしてそこに、「女」として生きることを選んだ男の苦悩と覚悟が、色気として醸し出されている。「オカマちゃん」の話し言葉がなんとも可愛らしくて、でも「あなた、苦労したのね」と声をかけられて目を伏せてしまうような翳もあって……。色気のかたまりのようなひと。

この美しさ、色っぽさを知らずに俳優・大泉洋を語ることはできないように思う。彼にはこんな引き出しもあるのだと知ってほしい。どうか。

まだ「大泉洋は何を演じても大泉洋」と思っている人に心から同情する。いや、これからこの衝撃を味わえるなんてむしろ羨ましい。

凄いぞ、この役者は。

 

そして、森崎さんの抑えめ(かつちょっとクズ)な演技、音尾さんの身勝手な中年男の演技、美味でした。アイドルを探せ!でも思ったけど、森崎さんが控えめな演技をすると、声が色っぽくて素敵。タバコを燻らせるシーンなんて、こりゃあ春夫が惚れるのも仕方ないわ……と説得力しかない絵面。
あと歌唱シーンが最高に面白くて魅力的なんですよ、私達の大好きなリーダーがそこに居る。

音尾さん、当時20代なのにどうしてあんなに貫禄が……?音尾さんの焦る演技、好きなんですよねぇ。目元に惹きつけられる。あと「もっと強いお酒ちょうだぁい?」が可愛すぎるので小魚さんは是非観ていただきたい……あざといぞ音尾琢真…………好きだ…………。

江田さんの演じる少年も良かった。少年の行き場のない目線が、とてもリアルだった(しんどかった)。
Jさんの演技もよかった、ジュンさんと竜一の絡みがこの舞台の救いだったから、たっぷり笑わせてくれて嬉しかったな。茶目っ気のある表情が印象的だった。
庄本さんの演じる叔母さんも味があって可愛かったな。

あとメイキングで楽屋の鏡に貼ってある「ガンバレよ」っていうシゲさんのお写真が可愛すぎるが!?!?

ネタバレあり感想

 ネタバレしてます。

 

 

まずなんといっても歌唱パート。

大泉さん演じる春ちゃんの歌、愛しさと切なさとのハイブリッドが凄い。愛しさと切なさと可愛らしさと。最強……。

全人類聴いて。頼む。純粋に歌が上手い……また歌う役来てほしいな……『子どもの事情』のジョーも最高だったもんね……頼む……。

あとなんといってもリーダー!!!!!!!!いやこれはずるいじゃん!!!!!!!!タバコ吸って大人の余裕崎博之かと思ったら、グラサンで決める声でか崎博之とかもう笑うしかないじゃん。最高笑うじゃん。好きじゃん!!!

てっちゃんのグラサンかけて楽しんでるはるちゃん、最高にカップルって感じで良かった……。

いやスナックのドタバタコメディほんとゲラゲラ笑えて最高すぎる。ラブ……。

 

で、後半。

いや…………しんど…………。
これ親子関係に悩んだことある人には尋常じゃないくらいに刺さりませんか。心臓止まるかと思った……。

竜一のお母さんが「散々殴って暴言浴びせた後でコロッと態度が変わる」タイプではなくて、ただ人生に疲れて余裕がなくなっていたタイプの親だったあたりが救いだろうか……いや全然救いじゃないけど……。

母親にされた酷い仕打ちだけぽっかり記憶失くなってるあたり恐ろしい程にリアルだし……。「折檻されてた」という記憶が蘇る時と、それを踏まえて独白する時の竜一の表情が最高すぎた。音尾さん、好き。

あと「母さんの嫌いなとこだけ忘れようとすると、楽しいことも全部忘れちゃう」って、自分でも整理がついてない竜一少年の声がすっっっっっっっごく良かった。苦しかったね……。

そしてそこでの「父さんが出てった後、陽子がお前を?」「父さんのせいでお前は……」ですよ。

"春ちゃん"がこの舞台で唯一、"春夫"に戻る瞬間。

竜一は父親を欲していた。そして、春夫は父として彼を抱きしめた。

あのシーン、鳥肌がえげつなくてもうノースリーブの服一生着れないかなと覚悟した……。
春夫は個人として、「女」として生きたいから"普通"の結婚生活から逃げてしまったけど、それでも"彼女"は親なんだよね。
逃げ出してしまった春夫の選択は正解とはいえないし、実際に竜一たちも春夫のことを許している訳じゃない。
それに、竜一が40代になるまで母親に受けてきた仕打ちの記憶を失っていたことからも、春夫との共同生活で過去の傷を乗り越えられた訳ではなかったことがわかる。まぁ短期間で10年の溝は埋まらないよね……。

それでも。あの瞬間。竜一が、親を求めていたあの瞬間。春夫は親として、彼を抱きしめた。

そして、ずっと封印していたその記憶を思い出して、やっと、竜一は親としての春夫と向き合えるようになったんだよね……

……いやぁ、愛おしいな……。

 

個人的ベストシーンは春夫の「行かないでよ!!!」ですね……あそこの感情の爆発させ方、大好きだ……。インタビューではあそこの感情の作り方が難しかったっておっしゃってたけど……本当あのシーン好き……。あの演技をしてくれてありがとう……。取り乱すときの苦しそうな顔も、声も、素晴らしすぎて……。徹男に女として必要とされたい自分と、子どもたちに親として必要とされたい自分、ごちゃまぜになって不安になって、ぐちゃぐちゃになってしまった心の悲鳴が胸に刺さりすぎて失血死です。

 

あとジュンちゃんの「オカマの恋は難しい、形がないから。その愛しか信じられるものがないから」が切なくてぐっときた……。普段おちゃらけてみせてる人の本音って、刺さりますよね……。

考察

「ひとり」ということ

 このお芝居で重要になるのが「ひとり」という概念。
「ひとりきりじゃ哀しいじゃない」と子どもたちと再会する春夫。「押入れの中だけが、誰にも邪魔されない、ひとりだけの世界だった。この場所が、いちばん安心できた」と過去を振り返る竜一。「ひとりで生きていく」と早くから覚悟を固めていた千明(竜一の姉)。「妊娠した子はひとりで育てる」と啖呵を切るまなみ(竜一の娘)。

この芝居で、「ひとり」は、誰かが覚悟を決めなければならないときに必ず出てくる概念である。

そして、本当は誰も「ひとり」になりたくないことを、強烈に突きつける。

春夫は徹男に「行かないでよ!!……ひとりにしないでよ……」と縋ったけど、あの台詞は全員の台詞でもあるのだと思う。

千明も竜一も、本当はひとりになんてされたくなかった。
中学生の時の竜一は「母さんと姉ちゃんと暮らしてたときだって、ひとりだった」「誰もぼくのことなんてどうだってよかった」と叫び、父親となった竜一は「俺はひとりでやってきた」と叫ぶ。
父親である竜一の言葉には、子どもの頃の竜一の声が重なる。どんな大人だって、こどもなんだな……とぼんやり考えてしまった。

そして、竜一の母も、言葉にこそしなかったけれど、「少しはママの気持ち分かってよ!」と理解者が居なかったことを仄めかされている。
彼女も、「ひとり」だったのだ。(ここの棚田さんの表情、素晴らしかったな……)

「ひとり」は、死の匂いがする。
誰にも心の内を明かさない、明かせない状態は、その人を追い込んでしまう。追い込まれた先にあるのは、「終わり」である。
強がらず、背伸びせず。誰かの迷惑になってしまうからと、口を閉ざさず。思っていることを正直に言う。その思い切りと勇気があれば、ひとは生きていけるのだ。

親子観・家族観

 上の章とも繋がる話ではあるが、このお芝居では、「相手の心のうちをしっかりと見つめること」「自分の心のうちをはっきりと伝えること」が家族なのだ、親子なのだと呈示される。

徹男が何度も竜一の父親のようだ、と言われるのは、徹男が「竜一くんはそれでいいの?」と何度も尋ねてくれるからである。
母親も父親も叔母も姉も、皆自分のことで精一杯で、竜一の意見をしっかり聞かずに動いてしまう。そんな中、事あるごとに竜一自身の心のうちをしっかりと覗いてくれたのは徹男だった。

それに比べ、春夫はずっと自分のカミングアウトに苦心し、子どもとの距離感に絶望して、対話を試みる前に感情的な行動を取ってしまう。これは「こども」性にフィーチャーしていると読み取れる。

ラスト、竜一が何を考えていたのかをしっかり聞いて、竜一を抱きしめた春夫は、あの瞬間、ようやく親としての一歩を踏み出したのだと思う。

そして、そのことを思い出した瞬間、竜一もまた、ようやく親としての一歩を踏み出したのだと思う。

親だってひとりの人間で。自分のことに精一杯で。それでも子どもを育てる義務はあるし、子どもと向き合うことが求められている。春夫も、竜一も、千明も、陽子も、みんな不器用で、みんな向き合うのが下手くそだった。心を打ち明けて乗り越えなければいけない時に、壁をつくって「孤独」に逃げた。この作品は、そんな彼らの心の壁に少しだけヒビが入る話なんだと思う。

親子関係の歪みをなおすことは難しいし、多分本当に完全に正せることはないのだけれど。対話によって、一歩ずつ、一歩ずつ、地道に歩み寄ることが解決策。その光を教えてくれる作品だった。


あと、いくら親子であることを捨てようとしても、親子の繋がりは消せないのだというのも重かったな。
虐待を受けた子どもが親になったとき、その子どもに虐待をしてしまう。それは、心が屈折してしまった結果、暴力がコミュニケーションの手段になってしまうことが一因にある。言葉が出てこないから、代わりに手が出てしまう。哀しい。

竜一の場合、負の連鎖から抜け出せるきっかけをくれたのは奥さんの「あなたは、どうして思っていることをはっきり言わないんです?」とジュンちゃんと飲み明かした夜で。竜一はひとりでやってきたつもりだったけど、あんなに心根の温かいひとたちに囲まれていてよかったなと思う。ここからそのことに気付いて、たくさん恩返ししてあげてほしい笑

克服するのは難しいかもしれないけど、ひととの向き合い方のコツを思い出せた竜一なら大丈夫。そうであってほしいな。

ブランケット

このお芝居で最も重要な小道具はブランケットである。
竜一がそばに置いて離さなかったブランケットは、父親なのだ。

春夫が離婚前に使用していたそれを、竜一は中学生のときに手放さなかった。現実で母親に当たり散らされても、ブランケットの中にうずくまれば、そこは守られた世界だった。
陽子がブランケットを「臭い」と罵り、竜一から取り上げたシーンと、春夫が「ずっと大事にしてくれてたんだね」とブランケットを竜一に手渡したシーンは、完全に対比になっている。

タイムカプセルにブランケットを入れていたことを最後に竜一が思い出すことと、春夫が父親として支えようとしてくれたことを竜一が思い出すことは、完全にパラレルになっている。

スヌーピーの登場人物でいつも毛布を握りしめている"ライナス"のように、ずっとブランケットを手放せなかった竜一。彼が春夫と再会し、ブランケットをタイムカプセルに埋め、それから現在まで、"父親"はいなかったけれど。というよりも、いないと思いこんでいたけれど。そのせいで、ずっと「ひとり」で生きてきたつもりでいたけど。本当は勝手にひとり心を閉ざしていただけで、ひとりじゃなかった。そのことに気づけた竜一は、きっと父にも娘にも思っていることを正直に言って、歩み寄るんだろうな……。よかった、思い出せて。

 感想というか叫び足りなかったので叫んでもいいですか?

春夫さんが妖艶すぎる!!!!!!!!!!!!!!!!し!!!!!可愛すぎる!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ひとりじゃ抱えきれない!!!!!!!!!!!!無理!!!!!!!!!!!!!!


ご本人が「僕の身体はプロポーションがいい、セクシーである」と自負されていますが、それを最大級に活かしてくださっている……スタイリストさん……有難う……春ちゃんに指輪とブレスレットとネックレスとイヤリングをありがとう……輝くサテンの寝間着をありがとう……白いタイトスカートをありがとう…………なんでこんなに色っぽいの!!!なんで細いウエストをベルトで強調するの!!!!ねぇ!!!!!世界!!!!!
ていうか春ちゃん、スカートたくしあげちゃダメ!!!!!セクシーな太もも晒しちゃだめ!!!!!!鼻血でちゃうでしょ!!!!!!!!やめて(やめないで)!!!!!!

あとママの歌唱シーン入れてくれてありがとうございます!!!!!!!甘いボイスが素晴らしくて歌詞がちょっと切なくてもうもうこれ以上ないくらい大泉さんの良さが詰まってますごちそうさまです!!!!!歌い終わった後に茶目っ気たっぷりにウインクするママ、好きだ……経営思うようにいかないなんて嘘だよ……ママのファンだよ……大好きだよ通うよ……

 

いやどうしても見た目の色っぽさの話になってしまうんだけど、でもその美しさは春夫の中身由来のものでもあるんですよ。
子供が怒りに任せて春ちゃんを「汚いオカマ」って言うときに、「汚いオカマよ」って肯定するシーン、ぞっとするくらい美しくて卒倒するかと思った。
人間の美しさって、その人の覚悟が見える瞬間にぶわっと放出されるものだと知った。
メイクが崩れてて、取り乱してて、それでも自分の道がある人間の美しさを、画面越しにも伝えてくれた。あの演技をしてくださった大泉さんに感謝が止まりません…………。
大泉洋さん!!!!!!!!!!!!!!!好きです!!!!!!!!!!!!!!!あなたのお芝居が好きです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!演劇の道に進んでくださってありがとうございます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

……語彙力がなさすぎて感謝の大きさをビックリマークの多さでしか伝えられないオタク。無力。

いやぁ……春ちゃん、女として生きたいと思って子育てほっぽりだして、それでもやっぱり子どもと暮らしたがって、不倫もして……と、かなり我儘だと思うし、いろんなひとたちを散々振り回したダメなひとだと思うけど、あんまりにも可愛らしくて切なくて抱きしめてあげたくなっちゃったな……よく頑張ったね……ラストでも女性の格好をしていて、「あなたはずっと、あなたらしく生きられてよかったね」と思った。竜一の娘が18くらいになるまで、あなたはどんな生き方をしてきたのだろうかと思ってしまうけど、それでも、最後にあのバーの電話を取ったってことは、細々とあのお店を続けてたのかな。苦しかったと思うけど、自分に嘘をつかずに済んで、よかった。

春ちゃん…………扇風機のスイッチを切る間が笑いのセンスに溢れていた春ちゃん…………。大泉さん演じるキャラでランキングしたらかなり上位に食い込むな春ちゃん……。なんて魅力的なんだ…………。弱くてだめなところも人間らしくて愛しいよママ……どこに行ったら会えますかママ!?!?金回り厳しいの!?!?いっぱいお酒飲みに行くしいっぱい話聞くよママ!!!!!!ひとりじゃないよママ…………

インタビューで10、20年後、春夫と実年齢が近くなったらまた演じてみても面白いねとおっしゃってくださった大泉さんに春ちゃんのような役がまたオファーされたらいいな!!!!!!!!いや最近の色気たっぷりの大泉さんがこういう役やられたらもう地球が爆発する気がするけど!!!!!それでも構わない!!!!!!映画界・演劇界の皆様!!!!!!!!!!!!!!!!!どうか!!!!!!!!!!!!!!!!!頼みました!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!