とまとの推しが尊い

ジャンルごった煮、推しにまつわることを書き連ねるブログ

舞台「世界は笑う」の感想・考察(ネタバレ無・有)

ネタバレ無し感想

BunkamuraコクーンシアターでのKERAさん新作公演「世界は笑う」、8/11ソワレ観てきました!!!

コロナの影響で複数公演が中止となり、持っていたチケットがたまたま初日のチケットに化けるという初めての体験……。
運に感謝し、幕があがることに感謝し……感慨深い気持ちで座席に座りました。

 

感想:人生〜〜〜〜ッッッ!!!!!!!!!!
いやぁ……ヒリつく感覚:笑いのバランスが、まさに人生でした。
喜劇人たちの「笑い」に込める魂、人生をかけているからこその命の煌めきと、その分犠牲になっているもの。4時間弱ずっと笑わせられているのに、ずっと胸の底に穴が空いているような感覚。ラストシーンで、ふと、どうしようもなく泣きそうになった。
舞台のうえにいるひとを、街を、すべてを、抱き締めたかった……

いやそれにしても構成がうますぎる、前半ではなんとなく笑いになっていたものが後半で牙を剥いたり、前半では感動的だったものが後半でおぞましいものになったり……とにかく引き込まれて心が揺さぶられる……なんだこれ……すごすぎる…………

とにかくプロジェクションマッピングの技術とセットと小道具が凄くて、本当に板のうえに街が存在しているようだった……登場人物も物凄く多くて、まるで映画のよう。
それでいて群像劇の中で「あの役を演じたひとがこの役を…!」という面白みは舞台ならではだし、お芝居のピリついた空気や笑ってしまうバカバカしい空気は一緒に共有できる……う〜ん、めちゃくちゃいいとこどりだ……!

ネタバレ有り感想

「人生はクローズアップで見ると悲劇だが、ロングショットで見ると喜劇だ」というのはチャップリンの名言ですが。この舞台は点としての喜劇→線としての悲劇→面としての喜劇…という多層構造になっていて、”不純物の混ざった”チャップリンよりも複雑な作りだったように思います。
いやぁとにかく引き込まれた……

【第一幕】

まず上演前に当時のCMソングが流れているの好き…!一気にその時代に入り込めました。
挿入歌「ケセラセラ」もよかった……当時の雰囲気を味わえると同時に「なるようになるわ 先のことなど 判らない 判らない」に少し現代と通じる価値観を感じたりもして、少し不思議な感覚になれたのが好きでした。

冒頭から撫子(伊藤沙莉さん)と大和(勝地涼さん)の掛け合い面白かった、今回のお芝居でこのお二人ほんと好きになった…掛け合いのテンポ大好きでした。

そしてオープニングの演出ほんとにほんとに素敵だった……良すぎる、本当に良すぎる……奥行きもあって、客席まで街並みと一体化してて、完全にホールが街になってた……あのオープニングもう一度体感したいレベル……

青木(温水さん)の哀愁演技がめっちゃ好きだった、テレビに「!」「?」が映し出される演出めっちゃ可愛かったし、失禁しちゃうところもドン引きにならず絶妙に笑えたの、ほんとお芝居の精度……ってなった……

テレビ番組の悪口を言った相手がテレビ局の人で突然へりくだるみたいな笑いとか、万引き犯捕まえるとこのドタバタ感とか、分かりやすい笑いが沢山散りばめられてて楽しかった。周りのお客さんたちと一緒に笑える空間が、好きだ……

「人を救えるのは笑い」とか「裸の女より最高の笑いの方がいい」とかいうセリフが印象に残っています。戦時中、慰問に芸人が来てくれて、笑って、勇気が出た。と語るシーンもよかった……セリフはもちろんのこと、そう語るひとびとの嬉しそうな表情がとっても煌めいてて……(水曜どうでしょうに心を救われた経験のある人間なので、激しく頷いてしまった)

第一幕は「何でお前が言うんだよ!」的な笑いが楽しくて、特に彦造(瀬戸康史さん)が座長をちゃん付けで呼ぶとこホントにゲラゲラ笑ってしまったなぁ……いや彦造面白すぎた。面白さでいえばマルさん(マギーさん)の空気感も大好きだったな〜!!!万引き犯捕まえる時のキャッチーな動きも、取材シーンでのやりとりも最高だった。

とにかく……とにかく今回は是也(千葉雄大さん)の役が刺さりすぎて……刺さりすぎて膝から崩れ落ちました……ヒロポンを慣れた手付きで打つ姿……日本を、世界を笑わせる!って意気込んでて、面白い脚本は書けるんだけど、芝居はあまり得意じゃなくて、「自分の芝居のせいで最高傑作が台無しだ」って自ら失踪してしまう性格……「笑わせてるんじゃなくて笑われてるんだ」って言われて「分かってる!」って返す表情……はぁ……なんというか、兄弟で雑巾投げあってる時はあんなにほっこり可愛いからこそ、落差が……。

※「笑わせてるんじゃなくて笑われてるんだ」って台詞、映画「浅草キッド」の深見千三郎の「笑われるんじゃねぇ、笑わせるんだよ!」が想起されて激エモでした……あれは昭和40年頃の浅草が舞台ですね……

あと、是也が「チャップリンは不純物が多すぎる!」って言う舞台で、チャップリン的無声コメディ(ショーウィンドウのマネキンコント)やってたのも趣を感じて好きでしたね……

トーキー(ラサール石井さん)の「若い頃の俺は面白かったかい、だったらもうそれで十分かな。一生面白くねぇままで死んでく奴いっぱいいるからな」があまりにも染みすぎて……染み……すぎて……プライドとか苦難とか色んなものが滲み出る言葉に、ぐっ……と来ましたね……すごく好きなシーンだったな……

一番笑ったシーンはデートのお誘い予行演習、一番笑ったセリフは「人間は死亡率100%」でした。

 

※ちなみに、是也へのファンレターの送り主がもともと鰯さんファンだったっていうときに「小太りで目の細ーい女…」っていうので笑いが起きていて、何の笑い?と思った……普通にただの見た目ディスじゃん……って……昔なら笑いどころだったかもしれないけど……
でも、これこそ劇中で言われていた「自分にとってつまらないものでも他人は面白い」なのかなぁ、などと考えたり。

 

【第二幕】

第二幕、ひたすら「芝居が……うまい……」「演出が……うまい……」「脚本が……うまい……」と唸り倒していました……全てがハイクオリティすぎて度肝を抜かれた……

一番好きだったのは花火の演出。

第一幕では慰問でのお笑いが人を救っていたのに、第二幕ではそのグロテスクさが語られる。ロマンチックな花火の音が銃声に聞こえるという演出の妙……なにもかもがぞくぞくしました。
その後のねじ子とトーキーの会話も胸に刺さった……一番笑ったって言われて喜ぶ感じが可愛いな〜と思っていたら、張り切って行こう!が消えていく演出が……このあたりの音と映像の技術がとにかくすごかった……
第二幕はとにかく、第一幕で核を覆っていたヴェールをびりびりと引き剥がすような展開が多くて、ひりつきましたね……たまらなかった……元妻と現妻の葛藤とかもう、呼吸を忘れて見入ってしまった……

笑いに関する台詞も、どれも心にひっかかって好きだったなぁ……「下ネタで笑えなくなったら終わり」「庶民が笑えなくなったら国は終わる」「誰かにとってつまらない作品も、誰かにとっては面白い」……台詞の間や表情も全部好きでした……

一番ぐさっと刺さってぬけてないのは、「あざとくあざとく笑いとって、笑われたらこんなもんかって…ずっとその連続」という旨の台詞……エンターテイナーを推す身として、舞台を降りた彼らの心の内を考えてしまった……あの時の大倉さんの目の空虚さが今でも鮮明に思い出せて……はぁ……好きなシーンでした。

大声で怒るのは甘えてるから、という個人的にすご〜く頷ける台詞もあり……なんというか、当時のことを描いているけれど、現代ととても通じるところがあるなぁ……と考えてしまった。特にママさんがちょっと舞台について提案とかしてるけど座長に撤回されてて、自分では「私は自分でこうしたいとか思いつけない」とか言ってて……ばりばりの男社会で「男を立てる女」が求められるの、正直今も昔も変わんないな〜……としんどくなってしまった。。少しでも生きやすい社会作っていこうな。。

第二幕で分かりやすく是也が狂っていくのがめっちゃ良くって……冒頭でヒロポンキマってる時は「世界を笑わせる」ってピンク色にきらきら光っていたのが、第二幕ではヒロポンによってただただ恐怖幻覚を見せられる苦しさ……幻覚を示す時のセットのアナログ感最高でしたね!!デジタルとアナログの融合が凄かった……たくさんの手に掴まれる是也……良すぎた……

あと物語のたたみ方が本当に綺麗だった……同じところに戻ってくるけど進んでいる感じ、というか。とにかくセットが凄すぎて、ラストシーンの電飾の動きとか、ほんと、あぁ……………ハッピーエンドなのかは分からないけれど、ゆっくり街の灯りが消えていって、最後に夜空に浮かぶ星と月を見て「あぁぁぁぁ……生きてる……ッッ!人の営みが……続いていく……ッッッ!」って胸がぎゅ〜っとなったな……是也の「ひとを笑わせたい」という気持ちは成就していてほっこりするけれど……切なさと嬉しさとが混ざって……月が綺麗な夜でしたね………

第二幕の面白さはとにかく対比の妙なのかな、と思っていて。慰問での笑いの捉え方とか、モノクロからカラーになる映画とカラーからモノクロになる世界とか、指輪のどたばた騒動と一人静かに手紙を読むはっちゃんとか、変わらない元兵士と変わってしまった元三角座メンバーたちとか……とにかく様々なものが対比構造になっていて、それによってお互いが引き立っているという絶妙なバランスだったなぁ。

一番の対比は「変わっていく人と変わらない人」なのかなぁと思っていて。笑いというナマモノに関しても、必死に波に乗るものたちと時代に置いていかれるものたちとがいたし。
亡霊に取り憑かれたまま変わらなかったはっちゃんは……見ていて胸が痛んだな……
同じく変わらなかったのはマルさんなのかな。お金くすねてるところ見つかって下手な芝居つづけるときの声色がよすぎたし、最後、金がないなりにラーメン屋が続いてたとこも凄く人生……って感じだった……

米田兄弟の関係性がよすぎて……さいごに兄弟で差話すときだけ少年の表情に戻るの泣いちゃうよ……幼い頃から笑いを研究してきた弟をず〜っと見てきたお兄ちゃん、ボロボロになった弟の治療を医者に頼むときも「優しいやつなんです!」って言うのがさぁ……ほんとにさぁ……是也が変わっていって、是也の周りのひとたちも変わっていって、彦造も変わってはいくんだけど、でも兄弟の距離感は根っこでは変わっていなくて……う〜ん……好きだぁ……

 

全体を通して、みんなどこか欠けていて、みんな必死で、だから面白かった。物凄い人数の群像劇で、全員主役!って感じだったな……現代に通ずる部分はありつつも、話し言葉の抑揚とか、皆で流行曲をこぞって合唱する空気感とかがすごく昭和で、自分が知らない時代なのに無性に懐かしくなりました。

いやぁ……ラストシーンほんとよかった……思い出すだけでなんだかノスタルジックな気持ちになる……はぁ……いいお芝居だったな……

 

考察(あちこちオードリーで語られる現代の芸人たちの悩みとの相違点)

 私はとにかくテレ東の「あちこちオードリー」というバラエティ番組が大好きで。これはオードリーがゲストを迎えて、ゲストの赤裸々な仕事トークを深堀りしていくという番組なのですが、今が旬の芸人さんからベテランのタレントさんまで、色んな方々の悩みが聞けるんです。
 (若林さんの深堀り力、芸人さんたちが一枚仮面を剥がしつつも笑いをとっていくトークスキル、神回率とっても高いのでおすすめ番組です。佐久間Pです)
 もちろん、テレビに出る年数やブレイクのタイミングによって悩みは様々で、令和ブレイク芸人さんと、昭和-平成を闘ってきた芸人さんとでは戦場の様子が全く違う…というのも面白いんです。昔のテレビは、とにかく尖ったことが求められていた。強い言葉がウケた。今は、見た目のディスりはあまり受け入れられない。誰も傷つけない笑いが称賛される。その時代、時代に合わせなければいけないのか、というタレントさんたちの葛藤は今も続いています。

 舞台では、板の上での笑いに真剣で、その真剣さがテレビ向けの笑いとかアイドル的人気の俳優への怒りに変わっていくひとびとの殺伐とした空気が描かれていましたが、その構図は今でも同じだなと思います。賞レースなどを目指す芸人さんたちが、YouTuberやTikTokerに向ける眼差しや、ビジュアルで人気を博して売れていく芸人さんたちに向ける眼差しは同番組でも何度も出てきました。
 そりゃあ、新しいものを取り入れていく姿勢は大事。でも、自分たちが築き上げてきたものを守る気持ちも大事。そんな葛藤をしながら、それでも舞台にあがると観客を笑わせることだけ考えてそんな素振りを見せないエンターテイナーって、凄いなぁ、となんだか泣きそうになります。
 プロの作り手にしか理解のできない高次元のものか、広くマス層に受け入れられる低次元のものか。この選択の葛藤は、時代を超えて、そして分野を超えて、すべての作り手たちが通る道なのでしょう。

 

 じゃあ昭和と現代が全く同じかといえば、そうではない。
 今回舞台を観ていて思ったのは、当時の喜劇人…あるいは当時の人達一般の尖り具合でした。モノがない。お金がない。
 現代だって貧困問題は根深いですが、今は世の中にモノもお金もエンタメも溢れている。この経済的な豊かさが精神的な豊かさに繋がっているのか、誰かをけなしたり、誰かを罵ることは"悪いこと、怖いこと"になっていて、嫌煙される。「刺し殺してやる!」なんて、"笑い"にはならない。
 なにも無かった時代だからこそ、命がけで、命を削って、笑いに飢えていた。
 そんな必死さ、足掻く力の強さをひしひしと感じるお芝居でした。すごい濃度だった……今、またラストシーンを思い返して胸の奥がぐっ……となっています。いいお芝居を見せていただきました。